Ansatzの古賀です。都内でマーケティング領域を中心とした支援会社を5年ほど運営しています。
AIによって、制作や分析といった実務のスピードは驚くほど速くなりました。ただ、支援会社の仕事全体が同じように速くなったかといえば、必ずしもそうではありません。
実装時間が短くなっても、役割間の引き継ぎや確認、調整、意思決定には相変わらず時間がかかります。むしろ実装が速くなったからこそ、コミュニケーションの重さが浮き彫りになる場面が増えました。経営者の方々と話すなかで、繰り返し出てくる課題も「スピード感」です。
小さな支援会社が、仕事の増加に人員の増加だけで応え続けるのは難しい。少人数で成果まで愚直に進められるチームを、意識的につくることが必要だと思っています。
私たちはこれからの支援会社に求められる変化を、「総ディレクター化」「コンテキストの常時接続」「情報資産の蓄積」という3つの視点で捉えています。
全員が判断し、全員が実装する「総ディレクター化」
これまでの支援チームでは、PMやディレクターが顧客との対話や要件整理を担い、デザイナー、ライター、エンジニアなどの専門担当者へ仕事を受け渡す構造が一般的でした。実装ややり直しに大きなコストがかかる時代には、制作前に要件を固めてから進めるほうが合理的だったからです。
AIによって、この前提が変わり始めています。文章やデザイン、分析、コードのたたき台を短時間でつくれるようになり、相談の初期段階でモック(試作品)を用意してくださるクライアントも増えました。
ただ、「形があること」と「課題が整理されていること」は別問題です。 モックがあっても、「誰の何を解決するのか」「何をもって良しとするのか」は曖昧なままかもしれません。
そこで求められるのが、目的と判断基準を整理し、自らAIを使って手を動かしながら方向性を修正できる人です。進行を管理するだけでなく、プレイヤーとして現場で一緒につくれること。深い専門性を軸に持ちながら隣接領域まで理解し、必要な判断と実装を自力で前へ進められる人に、これからの価値があると考えています。
支援に関わる全員が判断し、全員が実装する。それが「総ディレクター化」です。
施策の実行速度を高める「コンテキストの常時接続」
一人ひとりが実装する力を持っていても、事業の背景や文脈(コンテキスト)が共有されていなければ、判断を誤ります。
話を聞く日程を調整し、翌週の定例会議で進捗を確認する。そのあいだに状況が変われば、判断も実行も1週間遅れていく。これでは、実装の速さを十分に生かせません。
ここで言う「常時接続」とは、顧客と支援会社が事業のコンテキストを継続的に共有し、施策を動かすための前提知識を更新し続ける状態です。共有したいのは、たとえば次のような情報です。
- 事業の最新状況や施策の数値
- 営業や現場で聞こえる顧客の声
- 経営陣が重視しているテーマや、直近の意思決定の背景
必要な人が必要なときにこうした情報へアクセスできれば、来週の会議を待たずに「今、何をすべきか」を判断し、施策を実行に移せます。
会議も、進捗を読み合わせる時間から「いま迷っていることを一緒に解きほぐし、次の判断につなげる時間」へと変わります。常時接続は、常に働くことや即時の返信を求めることではありません。判断に必要な情報が揃い、実行を待たせない状態をつくることが狙いです。
プロジェクトを重ねるほど情報資産が蓄積する仕組み
同じ受託作業をAIで速くするだけでは、長期的な競争力にはなりません。単発の成果物を納品して終わるのではなく、プロジェクトで得た知識や仕組みを残し、支援先の会社そのものが強くなる循環をつくりたいと考えています。
これまでの受託では、成果物は残っても、その過程で得た知識や判断基準、仕事の進め方までは支援先に残らないことがありました。
残したいのは、次の仕事でも使える情報資産です。
- プロンプトやAIエージェント
- 分析方法や判断基準
- 制作テンプレート
- 自動化ワークフロー
- ダッシュボード
- 業務を通じて得たナレッジ
クライアントには、その会社の文脈に合った資産を残す。支援会社側にも、個社の機密情報とは切り分けた汎用的な判断の型や進め方を蓄積する。プロジェクトを重ねるほど、双方が次の課題に取り組みやすくなる状態を目指しています。
これから必要なもの、手放したいもの
この3つの視点を、私たちがつくりたい体制と、見直したい仕事の進め方に落とすと次のようになります。
必要なもの(Need)
- AIとともに実装できる、少人数のディレクター集団
- 専門性を持ちながら、AIを使って隣接領域まで担う人材
- 事業のコンテキストを継続的に共有し、課題発見から検証までを担う体制
- 戦略と実行を往復し、フィードバックから方向を更新する仕事の進め方
- プロジェクトで得た知識や仕組みを、再利用できる形で残す習慣
手放したいもの(Not)
- 顧客と直接向き合わず、指示された作業だけを請け負う姿勢
- 狭い業務ごとに人材を集め、人数そのものを価値として売る発想
- 営業、ディレクター、制作、運用のあいだで情報を何度も受け渡す構造
- 週次定例まで進捗や問題が見えない状態
- 戦略を考える人と実行する人の分断
- 案件が終わるたびに知識やノウハウがリセットされる仕事の進め方
- 人数と作業量を増やさなければ売上を増やせない事業構造
「人月」の発想を脱し、共に事業をつくる関係へ
最後に、お客様との向き合い方にも触れたいと思います。
支援会社の料金は、成果物ごと、あるいは「月額でこの体制が入ります」という稼働量に対して設定する形が中心でした。この対価の受け取り方は顧客にとってもわかりやすく、無理に成果報酬型などへ変える必要はないと考えています。
大切なのは、「人月で売っていても、人月の発想だけで働かないこと」です。料金体系よりも、その契約のなかで何を価値として提供するかを問い直したい。
「時間を切り売りしている」という発想のままでは、時間を消化し、約束した業務に取り組むことが仕事の目的になってしまいます。たとえ契約の単位が人月であっても、支援する側がその発想に囚われる必要はありません。
AIや自動化、蓄積したナレッジで実務を速くし、浮いた時間を顧客の課題の理解、アウトプットの品質向上、次の仕事に使える情報資産づくりへ充てる。顧客にはわかりやすい支援体制を提供しながら、事業の成長と仕組み化を共に進める関係をつくっていきたいと思っています。
売り方と価値のつくり方を切り分け、関係性を更新していく。そのために私たちが問い続けたいのは、AIでどれだけ時間を短くできたかだけではありません。その時間を使って、顧客の事業に何を残せたかです。